2010年02月26日
銀色の涙
興奮したね。
浅田真央の銀メダル。
いやぁ、凄かった。
ほんと!
まずはおめでとう。
あの重圧の中で、よくあの演技ができたと・・・もうそれしかいいようがない。
僕にとってはウィンタースポーツの中で最も苦手なのがスケート。
初めてスケートをしたのは大学2年か3年のとき。
スキーなら物心ついた頃からやっていたし、アルペンだけではなくクロスカントリーもジャンプも経験はある。
しかし北海道生まれの僕だが、スケートを滑る環境はほとんどなかったし、その時代は興味もなかった。
今でもしっかり覚えているが、大学時代に友人に誘われてはじめて行ったスケートリンクは川崎市にある向ヶ丘遊園地(今は、もうないが)。
偶然にもその当時、向ヶ丘遊園(小田急線沿い)に住んでいたので、一度は行ってみたいと思っていたのだが、まさかそれがスケートだというのも笑える。
スケート靴を履いたのはいいが、まともに立っていられない。
こんなバランスの取れないスケートというスポーツの何が楽しいのか分からなかったが、それでも何とか人の手を借りずに滑られるようになった頃、いい気になって滑っていたら・・・。
今度は止まることができない(汗)。
自然の力で止まるか、もしくは壁にぶつかるしかなかったのだが、目の前にいた数人の女子中学生がワーワー、キャーキャー楽しんでいる中に突っ込んでいって、ようやく止まることができた。
あ、もちろん転んで止まったんだけどね。
それが僕のスケートの初体験だったわけだ。
いやぁ、もちろん謝ったよ。
それ以来、何度かスケートを経験しているが、一度も満足したことはないし、決して好んで滑ったこともない。
そんな僕でもスケート競技を見ることは嫌ではない。
スピードスケートもショートトラックもフィギュアスケートも、競技を見るのは楽しいし、エキサイティングしてしまう。
ここ数年、日本の女子フィギュアは世界のトップクラスのレベルに達し、4年前のオリンピックで荒川静香が金メダルを取ってからというもの、ヒートアップしてきたのはいうまでもない。
そしてこの4年間、いやそれ以上か・・・、浅田真央に期待する雰囲気はさらに高まっていったといえよう。
誰もが金メダルを期待して・・・。
ショートプログラムでのキム・ヨナとの対決はキム・ヨナに分配が上がり、フリーまでの中一日、どのテレビを見ても、
「公開練習での浅田真央のトリプルアクセルは今までにないほど成功率を高めている。」
「練習を見る限り、キム・ヨナの調子が良くない。」
とか、
「過去のオリンピックではショートプログラムで首位になった選手は金メダルを取っていない。」
と、日本にとって都合のいい解説ばかり。
浅田真央に金メダルを期待する気持はわかるが、いつでもそうやって周りの人間が必要以上に彼女の金が当たり前と心に埋め込まされる感がなかっただろうか。
僕だって、そうであってほしいと思ったが、キム・ヨナのフリープログラムの結果を見て、その思いは次第に薄れて行くのを感じた。
悔しいけれど、そのときのキム・ヨナの上にいく人はいないと思ったほど。
スケートを満足に滑れない僕が言うのもナンだが、キム・ヨナの出した得点はとんでもないものだったのではないだろうか。
その重圧の中で滑り出した浅田真央。
前代未聞の2回のトリプルアクセルの成功。
その後の演技を淡々と滑る彼女の心の中はどうだったのだろう。
もし、それが僕だったら・・・。
間違いなく、頭の中は真っ白で、膝はガクガク、前に一歩進んだとしたらそのまま止まることもできずにお尻からスッテン。
その場で声をあげて泣いたことだろう。
演技終盤で着地がうまくいかず、3連続のジャンプを失敗、スケートを引っかけ、タイミングを失った最後のジャンプがシングルになったときの浅田真央は顔色が変わったように見えた。
あ~、これで金メダルはなくなった(と誰もが落胆しただろう)。
もちろん僕もそう思った。
ただ、僕が最高に感動したのはそのあとの彼女の演技。
全日本でも四大陸でも感じなかった彼女の気迫の迫った演技にはゾクッとした。
ラフマニノフの前奏曲『鐘』は過去にも競技で使われたことがあるらしいが、それほど記憶にない。
もともとはピアノ曲であるこの曲をアレンジして作られたものだが、スパイラルのときの彼女の顔は恐ろしいぐらいに気迫がこもっているのを感じられ、吸い込まれていく感じがした。
たしかにトリプルアクセルの成功は凄いのだが、僕はスパイラルの方がはるかに印象に残ったし、激しい動きをしながらのステップのときの目力(めぢから)は恐ろしいほどに人々を魅了したのではないだろうか。
演技が終わってからも耳の奥にずっとあの曲が流れ、それと同時に彼女の演技が目に焼きついて離れず、一挙手一投足思い出される。
あのときのあのジャンプさえ失敗していなかったら・・・、スケートが引っ掛からなかったら・・・と、何度も思った。
いや、それは僕が言うことではない。
彼女が充分感じていることなのだから・・・。
そして、彼女は悔しくて泣いた。
銀メダルを手にして泣いた。
よほど悔しかったに違いない。
この4年間、いや幼い頃からオリンピックの金メダルだけを目標に頑張ってきて手にできずに泣いた。
そのプライドの高さにも僕は感動している。
どれだけの練習をしてきたのだろう。
僕らが見る浅田真央は笑顔の可愛い、まだまだどこか幼さの残った顔しか知らない。
金メダルを手にできずに泣けるというのは凄いことである(僕のような凡人にとって)。
僕なら銀メダルでもおおはしゃぎしてしまうことだろう。
まだまだ彼女の可能性は彼女自身が捨ててはいないだろう。
もっともっと前を向いて、上を目指すに違いない。
彼女が向かう先に何があるかはわからないが、ファンの一人として応援してあげたいと思ったほどである。
銀メダルを胸に日本に戻ってきてから、大勢の人に祝福されるも今の世の中、また色々とくだらないことで騒がれるに違いない。
むしろそういったことに負けずに強い意志でこれからも日本中に夢を与えてくれる女性であってほしいとついつい期待してしまう僕である。
とにかくオリンピックで取った悔しい銀メダル(と彼女は思ってるだろう)だけど、誰もが金メダルに匹敵するメダルと思っているに違いない。
本当におめでとう。